Trugbild

目覚めればそこには / エレンと江蓮

開拓地時代のエレン⇔江蓮(12巻嘘予告)


  この頃日増しに寒さは厳しくなっていくばかりだ。未開拓の荒地では作物もロクに育たず、ほとんどの芽が収穫を迎える前に腐ってしまった。
 監視役の憲兵隊は町から配給される食糧も物資も限りがあると云って満足に与えてくれやしない。アルミンの云うように『口減らし』で人手を大勢駆り出したにも関わらず、日に日に備蓄は先細っていく。
 それでもひたすら土地を耕して種を植える他に今はなすすべが無かった。

 具材も味気も極限まで薄まった冷たいスープで腹を満たす。もう二度と食べられないと理解しているつもりなのに、たびたび台所に立ってシチューを煮込む母親の後ろ姿が浮かんで仕方ない。
 だが一方で、肝心の手料理の味はおろか、母の穏やかな顔も、声も、遠い記憶の彼方に霞んでしまってもう上手いこと思い出せなくなっていた。
 いつだって脳裏に焼きついて離れないのは、ロクに抵抗もできず巨人に喰われていく最期の姿だった。

 襤褸切れのような外套と毛布に三人で包まりながら吹き荒ぶ隙間風の冷気を凌ぐ。
 この冬を乗り切って、兵士になりさえすれば……対抗しうる力をつけさえすれば、いずれこの現状を変えられるハズだ。
 オレはこんなところで終わっちゃいられない。
 失った犠牲に報いるためにも、これ以上奪われないためにも、なんとしても、生き延びなければならない。

 凍え死にそうになっていた身体が、沸きあがる怒りと憎悪で熱を持ったような気がした。この震えが外気の寒さからくるものなのか、内包する怒りの熱からくるものなのかが最早定かではない。
 こわばる身体を抑え込むように抱きかかえてキツく瞼を閉じた──



「──うぇっくしッ!」
 自分のくしゃみの音で目が覚めた。体にかけていた布団は床に放り出されており、窓から漏れる隙間風で腹が冷えたようだった。
 鼻を啜りながら、あたま脇の目覚まし時計を見やる。そろそろ起床せねばならない時間だったので、仕方なく起きることにした。

「おはよう江蓮……あんた、まだそんな薄着で寝てたのかい? 風邪引いても知らないからね」
「……母さん」
「ほら、早く着替えてきな」

 呆れ顔でオレを叱りながら忙しなく動く母親の姿を目にして、どういうわけかひどく安堵した。フライパンで調理した目玉焼きを手際よく皿に移して食卓に並べている。いつもの朝の光景だ。そのはずなのに。

「なんだい、そんな目を丸くして突っ立って」
「……いや、なんか、もう会えないかと……」
「なーにバカなこと言ってるの」

 湯気の立つ味噌汁の匂いをかいだ途端、なぜだか鼻の奥がツンとした。勝手に震える声音で、どうにか顔を洗ってくるとだけ告げて足早に居間を離れた。

 寝る前に読んだ本の影響で変な夢を見たのかもしれない。三笠が「江蓮に似ている」と云って貸してよこした、人を喰う巨人と戦う物語の漫画だ。三笠の通学カバンにぶらさがった主人公のマスコットを指して、そんなに面白いのかと尋ねたら全巻持ってきた。昨日は丁度主人公と母親の話を読んだあたりで寝てしまった気がする。だからきっと、これは、そのせいだ。

 備え付けのタオルで洗った顔をぬぐいながら洗面台の鏡と向き合う。
 ──自分では、あの主人公とそんなに似ているとは思えなかった。

<了>

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